卒業論文

石井太研究会では、ゼミ生が研究会で行った各自の研究成果を、4年次に卒業論文として執筆します。このページでは、各年度の卒業論文を公開しています。


2023年度卒業論文

川島康生「日本人の自殺率に様々な社会経済的要因が及ぼす影響に関する人口学的分析」

WHO(2019)によると、自殺は世界中において深刻な問題であり、世界の主要な死因の上位20位以内に入っている。その数はマラリアや乳がん、戦争や殺人による死亡者数を上回っており、毎年70万3000人の人が自殺によって死亡していると推定されている。自殺率の減少という課題は国際の持続可能な開発目標のSDGsの3番目の目標である「すべての人に健康と福祉を」として盛り込まれており、世界中で自殺予防対策が求められている。我が国の自殺者数は、98年に年間3万人台に急増し、2010年までに3万人を超える水準で推移している。それ以降は減少傾向にあり、厚生労働省(2023)による警察庁の自殺統計によると令和4年において年間2万1881人と98年以前の自殺率が急増する前の水準となっている。だが、依然高い水準にある事には変わりはない。
 我が国における自殺研究は(1)社会学的・心理学的研究、(2)疫学的研究、(3)医学的研究の三種類のアプローチに基づいて、経済・社会的側面や医学的側面から自殺を研究し、有効な自殺予防策を立てようとしてきた優秀な研究が蓄積されている。これらの研究から示されているのは、自殺リスクにつながるうつ病などの精神疾患の背後には、個人の社会的立場との関係性や、事業の衰退、会社の倒産、雇用の喪失などによる経済的困窮が存在する可能性が高いとされている。
 その一方で、先行研究の多くは従属変数の自殺率として粗死亡率を用いている。一般に、地域別比較や時系列比較をする際、対象となる集団の年齢構成が異なるという理由から、粗死亡率では正しく比較することができない。そこで本研究では従属変数に、年齢調整を行った自殺率を用いることにより、年齢構成の違いによる影響を排除した自殺率と様々な要因の関係について人口学的分析を行うことを目的としたものである。 本研究からは、全国男女計以外の推定モデルについては三つの推定結果のうち固定効果推定が採択され、全国の男女計のモデルについては変量効果推定が採択された。選択された推定結果の係数について完全失業率は正が、合計特殊出生率、日照時間は負となった。選択されたすべてのモデルの完全失業率と大都市圏の女性以外のモデルの合計特殊出生率と全国・大都市圏の女性以外のモデルの日照時間の推定結果で有意性が見られた。日照時間に関してはプーリング推定では有意性が見られたのに対して、固定効果推定において有意性が低下しているため、都道府県の固有の効果による影響が関わっていた可能性があるとの知見が得られた。

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川村裕「出生順位別にみた出生率の年次推移の国際比較」

本研究は、先進諸国間に共通してみられる少子化について、出生順位別の出生率を長期的に観察し、少子化の状況に関するについて地域間での差異について考察することを目的とする。 津谷(2004)は先進諸国の中でも、日本・ドイツ・南欧諸国のように、1980 年半ば以降 TFR が 1.4 以下で推移し続けている国と、北欧・北米・英仏のように 1980 年半ば以降 TFR が 1.6 を下回ったことがない国に 2 分することができると述べている。また田畑(2010)は 2000 年代後半のロシアの出生率改善要因について、人口政策のもたらした影響について年齢別出生順位別出生数の観点から考察を行っており、出生率の分析には、合計水準のみではなく、出生順位別出生率の観察も重要であると言える。
 本研究によれば、先進諸国の出生率の減少過程には共通した動きがみられる一方、出生順位別出生率の減少については、地域ごとに違いがみられ、そこには様々な近接要因や背景が影響を与えていると考えられることが明らかになった。

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田村誓悟「高知県の将来人口シミュレーション」

国立社会保障・人口問題研究所(2017)(以下、社人研とよぶ)「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」(出生中位・死亡中位仮定)によれば、わが国の総人口は 2015 年の 1 億 2709 万人から 2040 年の 1 億 1092 万人を経て、2045 年には 1 億 642 万人まで減少する。さらに、2053 年には1億人を割って 9924 万人となり、2065 年には 8808 万人になるものと推計され、⻑期の人口減少過程に入ることが見込まれている。
 また、社人研地域別推計による高知県の推計結果によれば、老年人口割合は 2040 年に 40%を超え、2070 年には 42.8%まで上昇する。一方、高知県の総合戦略による推計結果によると、高知県の老年人口割合は 2040 年の 37.8%をピークに、以降下がり続け、2070 年には 27.3%になるとされ、将来推計の仮定設定の違いが、老年人口割合の推計結果に大きな差異をもたらしていることがわかる。
 本研究では、高知県が一定の老年人口割合を達成するために必要な出生、人口移動の水準を将来人口シミュレーションにより考察することを目的として研究を行った。
 本研究の結果から 2070 年において、全国の老年人口割合と同水準となるためには、出生率が 2040 年に 1.815 まで上昇することが必要であるが、純移動率が 2 分の 1 になる場合には、1.565 までの上昇になることが明らかになった。このように、出生率を上げることももちろん有効な人口高齢化対策である一方、人口流出の緩和との組み合わせによって、現在の高知県の高齢化対策により有効な対策が得られるといえる。また、各ケースの総人口数の見通しから出生率の上昇と純移出の低下が将来の⻑期的な人口規模に及ぼす効果が異なることもわかった。

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原田怜「将来人口シミュレーションによる教員数と児童・生徒数の趨勢」

本研究では一定の前提に基づき、児童・生徒数と教員数の将来推計を行い、将来における教員不足の動向を分析し、現行の学校教育制度の持続可能性について考察することを目的とする。 潮木(2005a)は、今後、教員需要増が見込まれることから、将来推計を行った上で制度の改正を議論すべきとしている。一方、水野(2010)は、少子化の進行により、正規採用ではない講師等の採用を増やしたことによって教員需要の減少が起きていると述べている。また、高良(1996)は、教員一人当たり生徒数をOECD諸国の水準に近づける制度変更を検討した上で、どのような供給体制を設ければよいかを議論する必要があるとしている。
 本研究では教員数と児童・生徒数の将来推計を実行し、教員一人当たり児童・生徒数を基に算出した「教員不足指数」の将来推計を行うことで、「教員不足」の将来動向を明らかにした。その結果、2045年度には「教員不足」ではなく「教員過剰」となることが明らかになったとともに、都市部と比較して地方部の方が「教員過剰」の傾向が大きく、現状のまま推移すれば、将来にわたり教員不足指数の格差は残ったままであることが明らかになった。

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2022年度卒業論文

安澤航太「将来的な死亡率改善が終身年金の給付現価に与える影響について」

本研究は、終身年金の給付現価について、将来の長期的な死亡率改善が年金現価に与える影響を考察することを目的としたものである。
 現在の年金数理計算は国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研と記す)(2017)「男女年齢別将来生命表」の将来死亡率をデータとするが、最新の社人研2017年推計において将来生命表が提供されていない2066年以降の死亡率改善を織り込んで将来時点で年金現価計算を評価したものは行われておらず、年金現価の長期的な評価は必ずしも十分に行われていない。さらに、このような将来死亡率改善を織り込んだ年金現価の増加について、利子率の変化の影響を分析した研究は行われていない。そこで本研究では、死亡率に将来改善を織り込んだ場合の年金現価への影響について、年金現価に影響を与える(1)死亡率(2)利子率(3)受給開始年齢という3つの観点から分析を行うことで、年金現価の算出において死亡率改善を織り込むことの必要性を考察する。
 具体的には、一定の前提に基づいて2066年以降の死亡率の将来推計を行い、後述する内野(2020)の手法を用いて将来死亡率改善を織り込んで年金現価の算出を行った。そして、長期的な死亡率改善を織り込むことによる年金現価の増加幅を定量的に評価し、さらなる高齢化・低成長時代を迎えるわが国の年金数理計算において、将来死亡率に長期的な改善を織り込むことの必要性を明らかにすることができた。

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岩瀬龍広「千葉県流山市の人口移動が同市の人口減少、人口高齢化に与える影響について」

本研究は、千葉県流山市の人口移動が同市の人口減少、人口高齢化に与える影響について考察することを目的とする。
 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位・死亡中位仮定)(2017)によれば、わが国は長期の人口減少過程に入ることが見込まれている。同じく、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年)推計」によれば、2030年から2035年以降にはすべての都道府県で総人口が減少するようになることが見込まれている。しかし、千葉県流山市の人口は2015年から2045年まで人口が増加することが見込まれている。
 本研究では、流山市(2018)「次期総合計画における将来人口推計 調査報告書」の推計を基礎としつつ、2015年を基準人口として、高位推計を再現した。「次期総合計画における将来人口推計 調査報告書」の推計は2030年までの推計のため、2030年以降は人口減少、人口高齢化が進むことが見込まれる。そこで、2030年から2045年までに特定の人口目標または結果を達成するために必要な開発増人口の流れに関して、4つのケースに分けて機械的シミュレーションを行い、人口移動が人口減少、人口高齢化の解決策となるか考察した。
 本研究の結果より、人口移動が人口減少に与える影響は非常に大きいことが明らかになった。また、生産年齢人口の減少に関しても、人口移動が与える影響は大きいことが明らかになった。一方で、人口高齢化を緩和することに関しては、人口移動が与える影響は小さいことが明らかになった。

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北原伸太郎「Renshaw and Haberman モデルのパラメータ推定の安定性評価」

本研究は死亡率推計で使われる Renshaw and Haberman(RH)モデルのパラメータ推定の安定性を、同じく死亡率推計で使われる Lee and Carter(LC)モデルのパラメータ推定と比較しながら評価することを目的としたものである。
本研究では二つの観点から安定性の評価を行った。一つ目は全国、東京、愛知、鳥取男女の死亡データそれぞれに対し、LC モデルと RH モデルの当てはめを実行し、そのパラメータをプロットしてグラフの形状を比較し、二つ目は、当てはめ対象とする年齢・年次範囲を変えた時のパラメータの変動をマンハッタン距離の測定によって評価した。
前者の結果、LC モデルと比べて RH モデルはパラメータの変動が大きいことがグラフの形状から示された。
また、後者の結果、年齢・年次範囲を変えた時、LC モデルよりも RH モデルの方が距離はかなり大きくなっていることがわかり、パラメータの変動の大きさが示された。
これらのことから RH モデルのパラメータ推定は LC モデルと比べて不安定だということがわかった。ただし、年次範囲を多くとったものの方が解釈がしやすい結果になる場合もあり、RH モデルが適合性が高い場合もあることも示唆された。

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小島洋人「2015年の我が国における喫煙によるがん死亡が平均余命にもたらす影響についての考察」

本研究では、2015年の我が国における死亡について、喫煙ががん死亡にもたらした影響を、特定死因を除去した場合の平均余命の延びを算出することで評価を行う。
  令和元年国民健康・栄養調査では、能動喫煙と受動喫煙の割合が減少していると示されている(厚生労働省 2020)。本研究は、喫煙が近年の我が国の平均余命に対してどのような影響をもたらしているのかを評価することを目的としている。
データ分析について、先行研究であるKatanoda et al.(2021)から、がん死亡のうち喫煙による死亡が占める割合の推計値を用い、2015年における喫煙によるがん死亡を除いた年齢階級別死亡割合を計算した。また、この死亡割合を用いて喫煙によるがん死亡を除去した生命表を作成し、除去しないものと比較して平均余命の延びを算出した。
結果としては、0歳から50~54歳までの男性で約0.9年、女性では約0.4年の延びが見られた。
本研究で算出した平均余命の延びと先行研究であるSakata et al.(2012)及びOzasa et al. (2008)の影響を比較したところ、本研究による影響はより小さい結果となった。

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都築英莉「フレイルティモデルのわが国の 悪性新生物コーホート死亡率への応用」

本研究は, わが国の男性コーホート悪性新生物死亡率に、フレイルティモデルを当てはめ, その動向を定量的に分析することを目的とする。
1900〜1940 年に生まれた 41 コーホートの男性を対象とし、日本版死亡データベースと人口動態統計を用いて、45〜89 歳の年齢別悪性新生物死亡率を推計した。さらに、フレイルティの分布を表す関数としてガンマ分布を用い、 標準的な死力にゴンパーツモデル、ワイブルモデルを用いてモデリングを行った。推計結果から、悪性新生物死亡率は中年から老年にかけて上昇スピードが減速する中年上昇型であることが明らかとなったが、1910〜1920 年コーホートではその減速は緩やかになっていた。フレイルティモデルへの当てはめからは、全てのコーホートにおいて、ガンマワイブルモデルの方が当てはまりがよいことが確認された。モデルのパラメー タを観察すると、1900〜1910年半ば生まれコーホートまではフレイルティのばらつきが小さくなったが、それ以降のコーホートでは再び上昇する傾向が観察された。さらに、標準的な死力であるワイブルモデルの切片の観察からは、1930 年生まれコーホートから急速に悪性新生物死亡率が改善していることが明らかとなった。
わが国の悪性新生物死亡率は、 脳血管疾患死亡率の低下などの他の死因の影響から、一時的に中年で死亡率が急上昇する年齢パターンから離れたものの、その後、他の死因の影響が小さくなるとともに悪性新生物死亡率自体も改善し、本来の年齢パターンに戻るという変遷を遂げてきたものと理解できる。

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2021年度卒業論文

大川祥平「外国人受け入れが国民医療費に及ぼす影響についての考察」

本研究は、外国人受け入れの拡大が日本の国民医療費に与える影響について考察することを目的とする。
 日本において人口減少、少子化・長寿高齢化が進んでいるが、それに対して外国人受け入れの拡大は1つの解決策となりうる。外国人受け入れの拡大を議論するうえでは社会保障への影響などについて長期的な視点で慎重に検証する必要がある。
 そこで本研究では、国民医療費の将来推計を行うために外国人受け入れを拡大した将来人口シミュレーションを使い、1人当たり年齢階級別医療費とその伸び率を設定し、それらを乗ずることで、外国人を受け入れた時の将来の国民医療費を推計した。
 本研究の推計結果によれば、外国人受け入れ人数が多くなると国民医療費は高くなることが示されていた。また、受け入れ期間が長いほど受け入れ人数による差は大きくなり、 2090 年時点では50万人受け入れケースの国民医療費が 5 万人受け入れケースのおよそ 2 倍になっていることがわかった。また、1 人当たり医療費に関しては、推計期間中は上昇傾 向を示しており、外国人受け入れ人数が多い仮定ほどその上昇が緩やかになる傾向があることがわかった。このことは外国人受け入れの拡大が国民医療費の増加をもたらすものの、 1 人当たり医療費の増加率の軽減という負担の面で正の影響を与える可能性を示唆している。

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小澤亮太「2045 年の国内観光産業における年代別消費動向に関する分析」

本研究は、日本国内における観光産業について国内旅行者の年代ごとの人口データを分析し、それらの傾向について考察することを目的とする。
 また、将来の日本の観光産業や日本経済における課題とその解決策を人口学的観点から論じる。本論文において、考察の際に新型コロナウイルス流行の影響については考慮しないものとするため、2020年~2021年の関連データは考慮しないものとし、2010年~2019年までの10年間の旅行・観光消費が継続するものと仮定し、国土交通省観光庁の旅行・観光消費動向調査の調査拡充後の2010年から2019年までのデータを収集対象とした。
 また、国立社会保障・人口問題研究所(2018)の日本の地域別将来推計人口(平成 30(2018)年推計)の2045年の推計人口のデータと国土交通省観光庁(2011,2020)旅行・観光消費動向調査のデータとを用い、2045年時点での国内旅行者の消費額を考察した。

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齋藤優汰郎「北海道の市区町村別人口性比について」

本研究は北海道の市区町村別の人口性比について,全国平均の性比と比較を行うことで,男女がそれぞれ有意に多い地域を求め,その地域間格差を生み出す要因について考察することを目的としたものである。
 日本の人口性比は東西で二分されるが,本州以南の人口性比については工藤(2011)や工藤(2012)にもあるように,民俗学的・社会学的観点から考察が進められてきた。一方で北海道,特に各市区町村についての研究はまだ十分とは言えない。そこで本研究では,
(1)全国平均から大きく乖離している地域はどこか
(2)その差を生み出している原因は何か
という2つの観点から分析を行う。具体的には,後述する清水他(2009)の手法を用いて検定を行い,統計検定量の値によって男女数に偏りが多い地域を調べた。その結果,全体的には幼少期に男性が多く年齢を重ねるに連れて女性が多くなることが分かった。またそれぞれの市区町村に着目してみると,室蘭市の 20-24 歳,千歳市の 20-24 歳,北見市の 20-24 歳,室蘭市の 15-19 歳,千歳市の 45-49 歳で男性が有意に多く,札幌市中央の 20-24 歳, 札幌市中央区 25-29 歳,札幌市中央区 15-19 歳,函館市の 80-84 歳,札幌市 中央区 40-44 歳で女性が有意に多いことが明らかになった。

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澤畑祐人「外国人受け入れによる国内産業への影響の定量的分析」

本研究は、わが国の外国人受け入れ数に対する産業への影響を分析することを目的としたものである。
 研究の上では、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口と独立行政法人労働政策研究•研修機構の推計を主な先行研究として位置づけ、それをベースに新たに仮定をおいてデータ分析を行なった。
 分析においては2つのシミュレーションを行なった。シミュレーション A は、受け入れ外国人が性別や年齢、産業別の就業割合において日本人と同様であるとした仮定に基づくものである。シミュレーション B は、2019 年 4 月の法改正によって外国人労働者に対して設けられた在留資格である特定技能1号、2号に対応したものである。特定技能は、特にわが国において人材確保が難しい産業分野において一定の技術や知識を有する外国人に与えられる資格であり、具体的には 14 業種が指定されている。そこで、これらの業種に集中的に受け入れ外国人が就労することを仮定してシミュレーションを行なった。
シミュレーション A では産業別の就業者数のバランスを改善するとは必ずしもいえない一方、シミュレーション B では将来就業者数減少が見込まれる分野を受け入れ外国人が補う結果となり、将来の産業別就業者数のバランスを改善できる可能性があることが明らかとなった。

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寺西開「Uターンの活性化と地域の将来人口シミュレーション」

本研究は, 日本の非大都市圏における地域の人口について, 国内での人口移動, とくに U ターン移動の活性化仮定から将来人口のシミュレーションを行い,U ターンの持つ地域人口への影響を定量的に分析評価することを目的とする.
 わが国の総人口は 2008 年にピークを迎え, 2009 年から減少が始まったが,この人口減少は顕著な地域差を伴いながら進行している. 首都圏の人口は現在でも依然増加を続けているがのちに減少に転じるとされる一方, 地方圏では 2000 年以前から減少となっている自治体も少なくない. そういった非大都市圏の地域の人口・社会の衰退を食い止める要素として, U ターンが一例としてあげられる. 本研究ではこうした U ターンに着目し分析を行うこととし, U ターンのもつ地域人口への影響を分析評価するにあたり, 国立社会保障・人口問題研究所による地域別将来人口推計(2018)の手法に準拠し, U ターンが従来から 1.5 倍, 1.75 倍, 2.0 倍活性化したと仮定を置いた場合の 3 ケースについて, 山口県を対象にそれぞれ基準年の 2015 年から 2045 年にかけて 5 年ごとに, 将来人口のシミュレーションを行った. シミュレーション結果として, 2045 年総人口を比較すると, 1.5 倍のケースでは約 123 万人, 1.75 倍では約 135 万人, 2.0 倍では約 147 万人程度となり, U ターンが 1.5~1.75 倍に活性化したとした場合でも, 2015 年水準人口の約 140 万人が維持されないことなどが明らかとなった.

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山下遼馬「出生率の変動が神奈川県の将来推計人口に与える影響についての考察」

本研究では出生率の変動が神奈川県の将来推計人口に与える影響について考察することを目的とする。
 日本創生会議は 2014 年に、2040 年までに全国のおよそ半数の自治体が消滅する可能性を公表し、社会に大きな衝撃を与えた。国は同 2014 年に「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げ、2016 年には「まち・ひと・しごと創生法」を策定し都道府県・市町村に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を定めることが努力義務とした。神奈川県は、全国で 2番目の総人口数を持つ一方、急速な少子高齢化が進んでいる。「神奈川県まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、2019 年に神奈川県の希望出生率である 1.42 の実現を数値目標として掲げている。
 本研究では、社人研の地域推計を基礎としつつ、この推計に出生率が改善した場合の影響を加えることで、神奈川県における出生率の変化が将来の人口規模・構造にどのような影響をもたらすかについて定量的シミュレーションを分析することにより考察した。
 その結果、神奈川県の希望出生率 1.42 を実現したケース B であったとしても将来の人口に与える影響は限定的であるという結果が得られた。一方、国の希望出生率 1.80 を実現したケース C では、一定の人口減少や高齢化緩和の効果が認められるとの結果が明らかになった。

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2020年度卒業論文

井口雄喜「外国人受入れ拡大がもたらす都道府県別人口への長期的影響」

本研究は、外国人受入れ拡大がもたらす都道府県別人口への長期的な影響を考察することを目的とする。

国立社会保障・人口問題研究所(2017)の将来人口推計によれば、日本の人口は今後大きく減少していくことが見込まれている。また、少子高齢化の進行によって、社会を支える15〜64歳の生産年齢人口は減少を続ける一方で、65歳以上の老年人口は増加を続けている。このような生産年齢人口の減少は、既存の日本の社会システムの継続を脅かすことになる。

日本では外国人労働者の実質的な受け入れを進めてきた上、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し、2019 年4月より施行された。これにより、新たな外国人材の受入れが開始され、今後、より多くの外国人労働者が日本に入ってくると考えられる。

また、人口減少・少子高齢化とともに日本で問題となる人口変動の一つに、人口の大都市圏集中・地方からの人口流出がある。地方では都市圏に比べて、より人口減少に苦しんでいる地域があり、そのなかには外国人受け入れに積極的な自治体もある。しかし石川(2014)によれば、海外からの移民あるいは外国人労働者は、大都市をはじめとする特定の地域に集住する傾向があることが指摘されており、地域における移民・外国人労働者受入れ問題の議論に際しては、日本における集住傾向を分析し、人口の大都市圏集中、特に東京への一極集中の加速という問題を考慮する必要があるといえる。

このような問題意識の下、既存の研究では外国人移動仮定を変えた場合の、都道府県別・年齢階級別の将来の地域人口推計は行われていない。そこで、本研究では、外国人労働者受入れ拡大が都道府県別・年齢階級別の人口に及ぼす影響を明らかにする観点から、都道府県別将来人口のシミュレーションを行った。

そこで、本研究では、外国人労働者受入れを2035年に25万人になるものと仮定して都道府県別・年齢階級別の人口に及ぼす影響について、都道府県別将来人口のシミュレーションを行った。

推計方法としては、まず「外国人の国内移動を考慮しない受入れ外国人推計」を作成した。これは、受入れ外国人の入国時の都道府県割合を固定し、それをすべての年齢階級、すべての年次に適用するものとして作成した。次に、外国人移動者全体をプロジェクションすることにより「外国人の国内移動を考慮した受入れ外国人推計」を作成した。これは、各5年間の受入れ外国人増加分に、次々に純移動率をかけることによって算出した。

本研究から得られた結果として、受入れ拡大外国人の国内移動を考慮した場合、国内移動を考慮しない場合と比べ、大都市圏とその近郊における、都道府県別人口割合に大きな差が見られた。また、外国人受入れ拡大が、大都市圏だけでなく、地方圏においても人口減少・高齢化を緩和する要因となることが示唆された。

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後藤克徳「外国人受入れ拡大が地域人口及び地方財政にもたらす影響に関する人口学的研究」

本研究では外国人受入れ拡大が地域人口の規模・構成と地方政府の財政に与える影響について考察することを目的とする。

今日の日本が抱える社会的な問題として、人口減少と東京一極集中がある。国立社会保障・人口問題研究所(2017)の将来人口推計によれば、2065年時点(出生中位・死亡中位)で日本の人口は大きく減少することが見込まれており、これらの問題は多岐にわたる分野に影響を及ぼす。特に働き手の不足に対して政府は外国人の実質的な受け入れを進めてきており、地方レベルでも外国人を積極的に受け入れている自治体もある。そこで、本研究では「地方での外国人受け入れ」に着目し、それが自治体の財政に与える影響を考察する。

増田(2011)は地域の人口増加率と地方政府の歳入増加率が正の相関の相関を持つことを示しており、原(2000)は地域人口の流出が地方の教育や財政に与える影響について考察している。さらにOECD(2018)はアメリカでの移民受入れが地方財政に負の影響を与えると結論付けている。

本研究では国立社会保障・人口問題研究所(2018)による『日本の地域別将来人口推計(平成30(2018)年推計)』を基礎とし、秋田県・東京都・福井県を対象としてコーホート要因法を用い、将来人口のシミュレーションを実行した。さらに外国人受け入れ数に関する仮定を設定し、外国人受入れを拡大した場合のシミュレーションを行った。

さらにこれをもとに、外国人受入れ拡大が教育費支出と個人住民税収入に与える影響を分析した。その結果、外国人受入れ拡大は地域の年少人口・生産年齢人口を増加させることから人口減少や高齢化を緩和することが示唆された。また地方財政への影響については、3都県で教育費支出・個人住民税収入ともに増加するとの結果が得られた。しかし両者を比較すると、教育費支出の増加の方が大きいことから、外国人受入れ拡大は地方財政に負の影響をもたらすことが明らかになった。

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西山賢治「女性の学歴別出生率を用いた将来人口シミュレーション」

本研究は、女性の最終学歴別出生率を用いて将来人口のシミュレーションを行うことを目的とする。

一般に、高学歴の女性は低学歴の女性よりも出生率が低いとされている。日本では、女性の高学歴化が進み、出生力の低下や人口減少に影響を与えていると考えられる。こうした状況下にも関わらず、わが国では教育水準を考慮した将来人口シミュレーション関する先行研究は十分でない状況にある。

そこで本研究では、教育水準別の将来人口シミュレーションを行うため学歴別基準人口と学歴移動を設定し、学歴別出生力格差を考慮した将来人口シミュレーション(Case0)と、学歴別に出生率を上昇させた将来人口シミュレーション(Case1~Case3)を行うことで、将来人口推計に対する学歴別出生率の影響を示した。

学歴別出生力格差を考慮したシミュレーション(Case0)では、学歴別格差を考慮しない将来人口推計(封鎖人口)よりも総人口は減少するという結果が得られた。また、学歴別出生率を上昇させたシミュレーション(Case1~Case3)では、高学歴における出生率の上昇が今後の人口減少を緩和するために重要となることが示された。

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堀口侑「日本のモデル生命表の開発と地域別生命表推計への応用」

本研究では、Wilmoth et.al(2012)および石井(2013)の2つの先行研究を踏襲しながら、「日本型死亡データベース(以下JMDという)」の都道府県別生命表を用いて、日本型モデル生命表を作成することを目的とする。オムランの「疫学的転換」は、歴史的な平均寿命伸長を、前近代の「伝染病と飢餓の時代」から産業革命と近代公衆衛生の発達によって「伝染病後退の時代」を経て「慢性退行性疾患及び人為的傷病の時代」へと3段階で以降するとした古典的理論であるが(Omran 1971)、1970年以降の死亡率改善はその大部分を高齢死亡率改善に負うものであり(石井2008)、Olshansky and Ault(1986)はこうした高齢層での死亡率改善を、疫学的転換の第3段階に続く第4段階、即ち「慢性退行性疾患遅延の時代」と表現した。また、このような状況はわが国において最も顕著であり、それ故死亡率改善の高齢へのシフトに適合した死亡率モデル開発の必要性が指摘されていた(石井 2008)。

本研究は、このようなわが国の死亡状況を表現可能な日本型モデル生命表を、JMDを用いて構築することを企図するものである。具体的には、はじめにWilmoth et.al(2012)による”flexible two-dimensional model”(以下flexible modelという)の推計式をJMDの都道府県別生命表に適用した。その際、推計式の係数は、Wilmoth et.al(2012)において、JMD作成の元となったHuman Mortality databaseに収録された719の生命表から推計されたもの(Wilmoth et.al 2012)を用いた。その結果、flexible modelによる推計結果は、特に65歳以上の高齢層で推計誤差が大きくなること、またその推計誤差は65歳平均余命の伸長とともに大きくなる傾向を有することが確認された。特に後者は、わが国の高齢死亡率改善が近年急速に進展している事実を考慮すると無視できない事実である。

そこで、この65歳以上の年齢階級におけるflexible modelの推計誤差を行列の形に収納し、この行列に特異値分解を施して第一特異値と左右特異ベクトルから推計誤差自体の理論値を得た。この理論値を高齢層におけるflexible modelによる対数死亡率の理論値から減ずることによって高齢層での死亡率推計の改善を達成した。

最終的に、本研究から得られたパラメータを固定し、Wilmoth et al.(2012)の方法に倣って、65歳平均余命の実績値を再現するように修正を加えて、修正モデルを市区町村別生命表から2つの自治体(埼玉県和光市・長野県天龍村)の2015年女性のデータにモデル生命表を当てはめた。2つの自治体は、それぞれ老年人口割合が低いものと高いものとして、対照的であることから選出した。すると、修正モデルは的確に当該自治体の実績値を再現できることが確認できた。このことから、本研究の修正モデルは、市区町村レベルの将来人口推計にも応用可能であることが示唆された。

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